2019 Apr
23

ギャラリー陶オーナー 丹後恵さん-1

20 余年に渡って続けてきたのは、野の花で訪れる人をもてなすこと。

生まれ育ったのは忠類。家のすぐ近くにまで山や野原が迫り、清冽な川が町中を流れているところ。「山育ちだからか、小さいときから何気ない花、ヒメジョオンとかイヌホオズキとかが大好きだった」。大樹町の郊外でギャラリー陶を営む丹後恵さんと野の花との関わりは、ずっと昔、少女時代にまで遡る。今でもその名残が見られるように、当時の忠類の近くには湿地が広がり、林の中にはヤチボウズがたくさん見られたという。白い綿帽子をかぶって風に揺られるワタスゲが一面、群れをなして広がる湿地。フワフワと白い綿毛が空中を舞うように風に踊る、春から初夏にかけての季節。名前こそ知らなかったが、恵さんは家の近くで目にできる野の花や植物に心を奪われながら、幼い日々を過ごしてきた。「小さいときから絢爛たる花はあまり好きじゃなかった。何気ない花が好き。年をとるにつれ、バラだけはいいなと思えるようになりましたけど」。

就職を機に大樹町に移り住むが、子供が5歳の頃、町からはずれたモイワ山森林公園の山裾に家を建てて移り住む。2階の一部を家族と恵さんの陶器のコレクションのための部屋に、そして1階部分の一画にはカフェを設ける。コーヒー好きな恵さんが自分も楽しむためのカフェ、「ギャラリー陶」。

あれから20余年。ギャラリー陶は地元の人たちの隠れ家的なカフェとして、大樹の人たちにもモイワ山の麓にもすっかり溶け込んでいる。これまでにカフェで催されてきた写真展、絵画展、クロスステッチの刺繍展、陶器展などが、地域の人と人を結びつけてきた。ギャラリー陶は、今では恵さんを中心とした文化的なサロンのような存在にまで育ってきている。「ここまで続いてきたのはすべて日々の積み重ねがあったから。人を大切に思いながらやってきたことが今につながっている」。自然が好き、土のものが好き、野鳥が好き、山が好き、絵や写真を見るのが好き。そんな人たちが集まってくるカフェ。

野の花でもてなす。ギャラリー陶を訪れると、季節に関係なくいつも大樹町に咲く野の花や野原の植物たちが出迎えてくれる。師魯久窯、順心窯、久仁窯など、恵さんと家族が大切にしている陶器のコレクションの数々。それらが野の花や木の枝、植物たちを引き立てる。「何気ない野の花は、陶器とほんとうに良く合うの」。大小の陶器にさりげなく生けられた野の花たちは、陶器に引き立てられ、陶器を魅力的に見せながら、自然の中で規則正しく繰り返されている季節ごとの営みの豊かさを訪れる者たちにも分けてくれる。

摘んできた野の花を長期間イキイキとさせておくにはコツがいる。「摘んできた以上は、野の花を引き立ててくれる器に生けて、できるだけ長持ちさせたい」。恵さんはたくさん咲いているところから、12本とほんの少しだけ、野の花を分けてもらってくる。根ごと摘んでしまうことはあり得ないこと。翌年のことを考えながら、ほんとうに一部分だけ分けてもらってくるのだ。

恵さんは水上げの悪い花を摘んだときには、茎の下を2本の指先の腹でギュッとつぶしておく。そうして、戻ってきたら急いで水につける。草花を長持ちさせるための工夫。手作りの花摘み道具にもオリジナリティがいっぱいだ。段ボールの中に高さを違えて切ったペットボトルを6本、車に揺られてグラグラ揺れない程度にキッチリ詰めて入れる。別のペットボトルに詰めたたっぷりの水。そして新聞紙。花を摘むと、花持ちがするように根元をつぶすなどの処理を済ませ、新聞紙でクルクルと包んで背丈の合った段ボールの中のペットボトルへ。そして水を入れる。それが、恵さんの花摘みのやり方、そして大切な花摘み道具。ーつづくー(取材・文/萬年とみ子 撮影/高原淳)

■ギャラリー陶オーナー 丹後恵さん-1
ギャラリー陶オーナー 丹後恵さん-2
ギャラリー陶オーナー 丹後恵さん-3

話の主は…

ギャラリー陶

広尾郡大樹町萠和4856

TEL.01558‐63975

きょうの話は…

雑誌「northern style SLOW」vol.15 early summer 2008より

https://www.n-slow.com/books/books-225

※「northern style スロウ」は、2004年に創刊した北海道発の季刊誌です。
大自然の恩恵を受けながら、丁寧に心豊かに暮らしている人々を、これまでにたくさん取材してきました。
できるだけ多くの方々に伝えたくて、少しずつですがWeb Magazineで紹介していきたいと思います。
毎週月曜日に1話ずつ。ぜひお楽しみください。
http://www.n-slow.com/concept

category