ファームあるむ-2
あるむでは、地元の農産物をエサに、昔ながらの平飼い養鶏を行っている。親戚の手を借りながら手づくりしたという自宅裏の鶏舎を覗いてみると、黒い羽毛に包まれた鶏たちが思い思いに小屋の中を歩き回っていた。止まり木の上から興味深そうにこちらを見下ろしてきたり、エサをもらえるのかと近づいてくる鶏もいて、なんとも微笑ましい。世話をする手間は大変なものがあるけれど、元貴さんも敬子さんも、その手間をかける時間さえ楽しんでいる節がある。まだまだ小さな実徳くんも、「生後2ヵ月くらいから、おんぶして一緒に鶏の世話をしていますよ」とのこと。
鶏に与える飼料の原料は、ほぼ全て道産。青草、小麦、米、カボチャ、じゃがいもなどの野菜は、自分たちの畑で育てたものや士別近郊のものを。魚粉は酸化防止剤無添加のものを羽幌町から、ホタテの貝殻は北見市から仕入れる。唯一の道外産は塩だが、それも国産だ。
あるむでは、これらの原料を発酵させてエサを作る。ビニールハウスの中に積まれていた飼料に何気なく触れて、その熱さに驚いた。スコップで返すとぶわりと湯気が立ち上り、酸味を含んだ独特の良い香りが漂う。「発酵させた飼料に含まれる乳酸菌などが、鶏の健康を守ってくれる」ため、鶏の病気を防ぐための抗生剤などは一切与える必要がないという。マイナス20度を下回るような真冬日でも、発酵飼料が鶏の身体を内側から温め、免疫力を高めてくれるのだ。
また、あるむの卵の黄身は、市販のものと比べると赤みが少なくほんのりレモン色。エサに着色料などを一切加えず、代わりにカボチャで作った自家製サイレージや牧草を与えることで、自然な色合いの黄身になるのだそうだ。「初めて卵を買ってくれたお客様に、『黄身(の色)が薄い!』ってびっくりされたこともありますね」と、2人は笑みを交わす。
しかし相手は生き物だから、大切に育てていてもうまくいかないことはある。
「昨年の夏、産卵数が急に減ってしまったんです」。卵の数が足りず、毎日の配達分にも事欠く事態。2014年の夏といえば、北海道の各地で記録的な猛暑が観測された年。体力的にも辛い日が続き、前年の冬に生まれたばかりの長男の子育てにも、てんてこ舞い。「正直しんどかったですし、不安でした」。その危機を脱するきっかけをくれたのは、意外なことに実徳くんの存在だった。ーつづくー(「スロウ vol.43」2015年春号掲載 取材・文/家入明日美 撮影/高原 淳、菅原正嗣)