2018 Sep
20

ファームあるむ-1

崎原ファミリーの、鶏と共に営む日々

ファームあるむは、崎原元貴さんと妻の敬子さん、1歳になる長男の実徳(みのり)くんの3人家族が営む、小さな養鶏農家。あるむでは、オランダ原産のネラという卵と肉の兼用種を雛の段階から育て、産みたての卵を士別近郊に配達。全国発送も行っている。

大阪出身の元貴さんと愛媛出身の敬子さん。農業経験は一切なかったが、20代のときにカナダで出会ったある日本人の存在が、2人の人生を大きく変えることになった。「カナダの食料自給率は140%もあるのに、日本はわずか40%(当時)。今は輸入で補えているけれど、この先もその状態が続くとは限らない」。さらに、せっかく輸入した食料のうち、約3分の1は廃棄されてしまうことなど、その人は日本が抱える食の問題について話してくれたのだという。それは元貴さんに、「自分のためにも、環境や人のためにも、これからの生き方は農業だ」と決意させるには十分な出来事だった。

それから元貴さんは驚くべき行動力を発揮する。敬子さんと共に北海道に移り住んだのが、約8年前。まずは3年半酪農家の元で働きながら、自分たちのやりたい農業の形を練り上げていった。「やるなら養鶏と決めていました」と元貴さん。専門書を読み、他の養鶏農家に話を聞くなどしながら、着実に知識を蓄えていった。目指したのは、「地元に根ざした、小規模の循環型農業」だ。

養鶏ならば、エサの原料を道産で賄うことが比較的容易なこと。雛を育てるところから卵を消費者に届けるまで、一貫して自分たちの手で行えること。大規模な設備投資がいらないことや、加工せずにそのまま流通させられることも大きな魅力だった。

さらに元貴さんは、「鶏は、人との交流という点でも良いなぁと思ったんです」と続けた。酪農に携わる傍ら、2人は趣味で鶏を数羽飼育していた。すると近所の子どもやお年寄りが珍しがって集まるようになった。採れた卵をお裾分けすると、とても喜んでくれたのだという。楽しそうに思い出をなぞる様子を見ていると、「養鶏」という生き方は、生計を立てるための手段である以上に、2人にとって人や地域と繋がり合うことの歓びを与えてくれるものであるようだ。こうして2012年、念願の養鶏農家としての日々を士別でスタートさせた。

 

戦後、昭和20年当時から「物価の優等生」と呼ばれ、10個入り200円前後で気軽に購入できるようになった卵。しかし、「ひと昔前は高級品だったんですよ」と元貴さん。雛は茶の間で大切に育てられ、大きくなったら庭先で放し飼い。近所の農家の話によれば、卵は現在の価格で、1個当たり100円程で取り引きされていたという。品種改良や効率化が進み、消費者が気軽に卵を手にできるようになった現代。その一方で、「見えなくなってしまったものがあるのではないか」と、元貴さんは話す。

日本では、1羽ずつケージに入れて鶏を飼育するのが一般的だ。1羽当たりの面積は、約450平方センチメートル。一辺はB5サイズのコピー用紙程度しかない。身体を動かす余地がほとんどない構造は、運動によるエネルギーロスを防ぐことを目的としている。そうして生産された卵が、私たちの食を支えてくれている。その事実を、知らないままに過ごしている消費者も多いのではないだろうか。生産システムの良し悪しを単純に論じることはできないけれど、「知らない」というのは余りにも切なく思えてしまう。「食」は、生き物が命を繋いでいく上での基盤となるもの。「食べて健康になれるもの、きちんと身になるものを提供したいって思うんです」。穏やかな笑みを浮かべながら話してくれた元貴さんと敬子さん。それが崎原ファミリーなりの「食」との向き合い方なのだ。ーつづくー(「スロウ vol.43」2015年春号掲載 取材・文/家入明日美 撮影/高原 淳、菅原正嗣)

■ファームあるむ-1
ファームあるむ-2
ファームあるむ-3

 

話の主は…

ファームあるむ

士別市上士別町24線南53
TEL.0165-24-2262
http://farm-armu.com/

きょうの話は…

雑誌「northern style SLOW」vol.43 early summer 2015より

https://www.n-slow.com/books/books-146

※「northern style スロウ」は、2004年に創刊した北海道発の季刊誌です。
大自然の恩恵を受けながら、丁寧に心豊かに暮らしている人々を、これまでにたくさん取材してきました。
できるだけ多くの方々に伝えたくて、少しずつですがWeb Magazineで紹介していきたいと思います。
毎週月曜日に1話ずつ。ぜひお楽しみください。
http://www.n-slow.com/concept

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