2018 Sep
20

あすみちゃん-3

ある満月と、あすみちゃんの畑

いくつかのカゴを手に持って、大股気味にサッサッと歩いて、お目当ての薬草を見つけたら、手際よく摘んではカゴに並べて乗せていく。広い畑を縦横無尽に歩き回り、あっという間にいっぱいになったカゴを持って、次は木陰に置かれた小さな机の上へ。

 

まず作ってくれたのは、酵素ジュース。摘んできたばかりの草花を砂糖で漬け込んで、じっくりと、ゆっくりとエキスを引き出していく。ラズベリーやイチゴなど、いかにもおいしそうなものだけでなく、シロツメクサやイチョウの葉、白樺の葉など、身近だけど口に入れるのはちょっとためらってしまうようなものもたくさん入れる。「生のハーブティーだとクセがあっても、酵素ジュースの場合は混ぜられる葉っぱって結構あるの」。大きな葉っぱは適度な大きさに刻んで、可愛らしい小さなお花や真っ赤なベリーはそのまま瓶の中へ。砂糖を入れたら葉っぱを入れて、また砂糖を入れたらベリーを入れて。交互に層になるようにしたら、最後におまじないのように糀をひと振り。あとは適度に混ぜながら自然に発酵するのを待って、1ヵ月くらい経ったら飲みごろ。水や炭酸水で割って飲めば、薬草のパワーがたっぷり詰まった、あすみちゃん特製エナジードリンクの出来上がり。ちなみに言うと、瓶の中で漬け込んだ後の葉っぱやお花は、取り出して入浴剤としてお風呂に浮かべたり、ベリーはジャムにすることもある。

夕暮れが近づいてくると、今度ははぜろうクリームの作業が待っている。月明かりの下で行うなんて、何だか儀式めいていて、ちょっとドキドキする。「クリームづくりの前に、夕飯の準備をしよう」。外が暗くなる前に、もう一度畑に出て、豆を収穫。「自分が食べる分は自分で採るんだよ」。これが、今のあすみちゃんにとっての日常のひとコマだ。

いよいよ月が昇ってきた頃、はぜろうクリームづくりが始まる。はぜろうとは、櫨(ハゼ)という木の実から採れるロウのこと。古くは歌舞伎役者やお相撲さんが使っていたそうで、あすみちゃんは、福岡に行ったときにその生産者に出会ったのだそう。今やもう、作り手がほとんどいなくなってしまったはぜろう。出会ったその人は地元の技をいつまでも残そうと、熱心に普及活動に取り組んでいた。「人として好きだったし、素材もいいから」と、それまではミツロウで作っていた自家製の化粧品の原料を、はぜろうに代えることにした。昔から使われているだけあって、日本人の肌にしっくりとなじむ感覚があって、匂いもどことなく懐かしい感じ。直接肌に塗る化粧品になる素材だから、植物由来だということにも好感が持てた。

今クリームに使っているはぜろうは、長崎県で圧搾という方法で作られているもので、とっても貴重。はぜろうをつくる所はもう「絶滅しそう」なのだそうで、あすみちゃんが取り寄せているのも、本業の合間を縫って家族で屋号を受け継いでいる、小さな工房からだという。

昔ながらの技術を守るという考え方は、「身土不二」に深く共感を覚えるあすみちゃんの生き方にリンクする部分だったので、作り手やそれを受け継ごうとする人たちの気持ちに寄り添って、はぜろうを使い続けていこうと決めたのだった。―つづくー(取材・文/片山静香 撮影/菅原正嗣)

あすみちゃん-1
あすみちゃん-2
■あすみちゃん-3
あすみちゃん-4

 

話の主は…

きょうの話は…

雑誌「northern style SLOW」vol.49 Autumn 2016より

https://www.n-slow.com/books/books-5521

※「northern style スロウ」は、2004年に創刊した北海道発の季刊誌です。
大自然の恩恵を受けながら、丁寧に心豊かに暮らしている人々を、これまでにたくさん取材してきました。
できるだけ多くの方々に伝えたくて、少しずつですがWeb Magazineで紹介していきたいと思います。
毎週月曜日に1話ずつ。ぜひお楽しみください。
http://www.n-slow.com/concept

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