2019 Jun
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暮らしと珈琲 みちみち種や-3

これは、誰かの暮らしにそっと寄り添う珈琲を届ける、夫婦のお話。

「少しずつ元の暮らしが戻ってくるにつれて、珈琲やお花がほしくなったんです。生きるために絶対に必要なものではないけれど、何となく満たされない部分を補ってくれるものなんだって、やっと腑に落ちました」。珈琲を飲むことで、「いつもの時間」が戻ってくる。単なる嗜好品で片づけられない存在意義を、珈琲に見出したのだ。

しかしそんな思いや願いとは裏腹に、その後も逆境は続く。震災後1年ほどは、身の周りの整理や勤めている会社の復興などで慌ただしく過ぎていった。
2011年の夏には病床にあった哲平さんの父親が亡くなったこともあり、2人は言いようのない閉塞感に囚われていく。命には限りがある。頭で理解はしていても、心が置いていかれるような、どうしようもない息苦しさは拭えない。

2人が住んでいた地域は、他と比べれば被災の規模は小さかったらしい。だからこそ生じる葛藤もあった。哲平さんは当時の心境をこう語る。「自分達よりも大変な人がいると思うほど、好きなことと素直に向き合えなくなってしまったんです。まるで雲に覆われているような感覚。同じように感じている人も、多かったんじゃないかな」。

厚く垂れこめていた雲が晴れるように、珈琲への思いが増していった

特に同年代の中には、落胆している親世代のためにも先頭に立って復興を推し進めていこうと、力を発揮している人が多くいた。「役に立ちたい」という思いはあっても、同じようにはできない自分達。生前はNPO法人の代表として人々のために奔走していた父の姿を見ていたからなおのこと、「考えすぎてしまったんですね」と、振り返る。

そんな状況を打破するきっかけをくれたのは、新潟県に住む友人だった。気晴らしに遊びに来るといいと誘われ、車に乗って2人で新潟へ。すると、「住んでいる場所を離れるほど、ふーっと心が軽くなっていくのを感じたんです」と哲平さん。そして思ったのだ。地元にいて直接的に頑張る人もいる。けれど自分達は、「離れたところから、本当に力を発揮できることを頑張ることが大切なんじゃないか」。そんな風に意識が切り替わったことで、厚く垂れこめていた雲が晴れるように珈琲への思いがますます増していったという。「間接的にでも、できることを一生懸命やる。自分の場合、それは珈琲でした」。離れた所から、自分達にできる復興を。その結果としての、移住という選択。行き先は、旅行で幾度か訪れ、どことなく東北と似た雰囲気を感じ取っていた北海道と決めた。-つづく-(取材・文/家入明日美 撮影/高原 淳 取材日/2017年10月19日)

暮らしと珈琲 みちみち種や-1
暮らしと珈琲 みちみち種や-2
■ 暮らしと珈琲 みちみち種や-3
暮らしと珈琲みちみち種や-4

 

話の主は…

みちみち種や

石狩市緑ヶ原2丁目22
TEL.0133-77-5203
営業時間/13:00〜日暮れまで
定 休 日/不定休
http://www.taneyaka.com
※珈琲豆の注文は主にWebショップより受け付けています。
※イベント出展などで不在にすることもあるため、直接ご来店の際は事前連絡が確実です。

きょうの話は…

雑誌「northern style SLOW」vol.54 winter 2018より

http://www.n-slow.com/books/books-8619

※「northern style スロウ」は、2004年に創刊した北海道発の季刊誌です。
大自然の恩恵を受けながら、丁寧に心豊かに暮らしている人々を、これまでにたくさん取材してきました。
できるだけ多くの方々に伝えたくて、少しずつですがWeb Magazineで紹介していきたいと思います。
毎週月曜日に1話ずつ。ぜひお楽しみください。
http://www.n-slow.com/concept

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