2019 Mar
21

OK Ranch-2

共に歩んでいくパートナーとして

奥川さんは、日高町にあった大手観光牧場に転職。馬について学びながら、観光客に向けて乗馬体験メニューを提供していた。「最初の頃は、乗馬経験の少ない人に、『トレッキングは無理ですよ』なんて、平気で言ってましたね」。ある程度の経験がなければ、トレッキングはできない。それは至極もっともな考え方のようにも思える。しかし逆に考えれば「経験の少ない人にも、安心して楽しんでもらえる馬を育てられないことのほうが、恥ずかしいことなんじゃないか」。そんな風に考えるようになった頃から、奥川さんの馬への接し方や人との向き合い方も変化していった。「今日初めて馬に触るという人から教えてもらうことも、たくさんあるんです。馬に乗った人が感じたことを、俺たちも感じていたい」。自分たちの考え方を馬や人に押し付けるのではなく、同じ目線で。その考え方は、奥川さんが現在提供しているサービスにおいても言えることだ。

オーケーランチでも、シルバーランチでも、森や海などの自然の中を馬と一緒に楽しむメニューが豊富に用意されている。その内容は、訪れる人が何を楽しみたいかによってさまざまだ。まずは乗ってみたい人、景色を楽しみながらのんびり歩きたい人、思いっきり走ってみたい人。訪れた人が、馬と一緒に「やってみたい」と思うことに、安全な範囲の中で応えるのが基本のスタンス。「西部劇が好きな人には、馬に乗ってロープを投げてもらったりね。テンガロンハットを被って衣装を着るだけがウエスタンじゃない。実際にやってみると、鞍の形や装飾の一つひとつに意味があることもわかります。」何でもかんでも「きちんとやるべき」ということではないが、体感して初めて知る感動があることもまた事実だろう。「馬を楽しみたいと思ってくれる人たちが、普通に楽しめる環境づくり」が、奥田さんが目指すもの。それを、信念を持って提供する。そこに、馬に携わる者としての誇りがある。「オレたちはショーマンでもビジネスマンでもない。ホースマンでありたい、と思っています。」

牧場の馬たちの調教は、すべて奥川さんが行っている。「馬が一歩踏み出したその瞬間に、状態を判断する」。競争馬の調教に携わった経験からくるその観察眼はかなりのものだ。ただし、あくまでも「人を安全に乗せられる馬」に育てることが目的の調教。ここを誤ると、後々馬が困ることになるのだと奥川さんは言う。合図一つで馬がその通りに動く様子は、魔法めいていて確かにすごい。しかし行き過ぎれば、「自分の思い通りに馬を操れる」と、人を「酔わせて」しまいかねない。

奥川さんは、観客に見せるためのショーホースを作りたいわけでも、馬に服従を求めているわけでもない。調教の際には目的に応じて、必要なことを必要なだけ馬に伝えていく。もちろん、初めからできる馬などいるはずもない。ひたすら待って、できたら褒める…というより、「馬に感謝する」のだと奥川さん。そして、「馬が一番」なのではなく、馬の向こう側にいる人の存在を忘れないこと。35年間馬と共に生きてきた経験の中で培った考え方だ。そんな奥川さんを慕って教えを請いに来る馬関係者も多いが、奥川さんは決まってこんな話をするという。「俺の言うことを忘れないで。でも、信じないでね」。言われたことを素直にそのままやってみる。それもまた、必要なことだろう。ただ、自分で考えることをしなければ、人も馬も成長できない。本気で相手(馬)を知りたいと思えば、自然と疑問が出てくる。それが、馬と共に在るための最初の一歩だ。

馬は道具だと、奥川さんは言った。職人が片時も離さずに想いを込めて育て上げた、究極に洗練された道具。その道具がなければ、職人としての力を発揮することができないほどの存在。「俺たちは、馬という道具を介して自分自身を伝える。そんな馬だから、乗り手を感動させてくれるし、乗り手の気持ちを俺たちに伝えてくれる」。

その言葉に込められた愛情の、なんと大きく、深いことだろうか。(取材・文/家入明日美 写真/菅原正嗣)

◼︎OK Ranch-1
◼︎OK Ranch-2

話の主は…

OK Ranch

日高町富川東1丁目997−7

TEL: 090-2056-3171

http://ok-ranch.sub.jp

きょうの話は…

雑誌「northern style SLOW」vol.47 early summer 2016より

https://www.n-slow.com/books/books-2612

※「northern style スロウ」は、2004年に創刊した北海道発の季刊誌です。
大自然の恩恵を受けながら、丁寧に心豊かに暮らしている人々を、これまでにたくさん取材してきました。
できるだけ多くの方々に伝えたくて、少しずつですがWeb Magazineで紹介していきたいと思います。
毎週月曜日に1話ずつ。ぜひお楽しみください。
http://www.n-slow.com/concept

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